研究内容

岩手医科大学糖尿病・代謝内科の研究について

当科は教室発足以来、佐藤 譲 前教授および石垣 泰 現教授の指導のもと、主として臨床的な研究に力を入れてまいりました。また2016年より長谷川豊特任講師を中心に基礎研究分野にも研究の幅を広げています。なお、内科学講座再編に伴い今後は内分泌分野についても取り組んでいきます。

当教室の臨床研究

  1. 各臓器の糖尿病合併症の連関とサロゲートマーカーの探索

    糖尿病がさまざまな臓器に合併症をもたらす連関に興味を持って臨床研究を行っています。またこうした合併症を早期に簡便に診断するための非侵襲的で簡便な検査によるサロゲートマーカーの開発にも取り組んでいます。高齢化社会で問題になっているサルコペニアと肥満の合併は酸化ストレスの増強を介して動脈硬化の進展と関連すること(Obesity Science & Practice. 2017; 3, 212-218)や動脈硬化のリスクである心臓周囲への異所性脂肪蓄積はシスタチンCの上昇と関連すること(PLoS One. 2017; 12, e0184723)などを報告してきました。また糖尿病網膜症進展と動脈硬化の強い関連を明らかにしています。また北国の糖尿病診療で問題になる季節間の血糖コントロール変動が糖尿病腎症進展に悪影響を及ぼすことを報告し(岩手医学会雑誌2015; 67,157-170)、糖尿病腎症の新しいサロゲートマーカーの探索も進めております。

  2. 糖尿病大血管症診断における冠動脈石灰化スコアの意義

    単純CTで算出する冠動脈石灰化スコア(CACS)は、比較的少ない侵襲や被爆量で定量可能です。私たちは2型糖尿病患者のCACSが冠動脈イベントと関連すること(岩手医学会雑誌2012;64,363-369)、そのメカニズムとしてCACSと酸化ストレスマーカーが有意に関連することを報告しました(Internal Med 2014;53: 391-396)。また慢性高血糖の産物である終末糖化産物(AGE)の皮膚への蓄積を、皮膚の蛍光度で半定量した値と動脈硬化の検査指標、特に冠動脈石灰化が強く相関することを明らかにしました(J Atheroscler Thromb. 2016 ;23:1178-1187)。

  3. 超高磁場MRIを用いた脳血管障害の研究

    岩手医科大学超高磁場MRI部門と共同で、2型糖尿病患者では脳小血管病が明らかになる前の段階から脳動脈穿通枝の血流・形態異常がみられること(J Atheroscler Thromb. 2018 ; 25, 1067-1075)や家族性高コレステロール血症では対象に比べ脳白質病変が多いこと(J Atheroscler Thromb. 2019 ;Epub ahead of print)を7テスラMRIを用いた研究で明らかにしてきました。

  4. 病態や治療効果と遺伝子多型の検討

    ヒトの疾患の病態や薬剤に対する治療効果はさまざまな遺伝要因との関連が示唆されています。これまでTNF-αのプロモーター領域の遺伝子多型がLDL-Cの血中濃度と関連し、その結果として頸動脈のプラーク形成のリスクであること(Tohoku J Exp Med. 2007, 211: 251-258)や2型糖尿病患者においてスタチン製剤の臨床効果を減弱させること(Diabetes Care 2010, 332; 463-466)、このTNF-αの多型とアディポネクチン遺伝子多型との組み合わせがインスリン抵抗性と脂肪肝発症とに関連することを示しました(Tohoku J Exp Med. 2012, 226; 161-169)。またIL-6の2つの遺伝子多型のある組み合わせを持ちかつ中等度以上の身体活動度を有する場合に、経口糖尿病薬であるDPP-4阻害薬の無効例が有意に減少することを報告しました(J Diabetes Invest. 2015, 6:173-81)。最近では東北メディカルメガバンクと共同でHbA1c値に関わる遺伝子多型(Sci Rep. 2017; 7: 16147)やグリコアルブミン値に関わる遺伝子多型の検討を行っています。

  5. 甲状腺ホルモンと耐糖能障害との関連

    甲状腺ホルモンの活性型であるT3が2型糖尿病においてメタボリックシンドロームの要素と関連すること (Tohoku J Exp Med. 2011; 224, 173-178)や、T3が耐糖能異常を有する患者におけるインスリン分泌に重要な役割を果たしており、膵β細胞機能を改善する治療法に結びつく可能性を見出しました(Diabetic Medicine. 2015; 32:213-219)。

  6. 肝疾患と血管合併症関連因子

    脂肪肝に関する画像解析を基に、Lp(a)が肝硬変糖尿病患者で低値で糖尿病網膜症や脳血管疾患発症率の抑制と関連すること(Tohoku J Exp Med. 2005, 205; 327-334)やMRスペクトル分析で定量した肝臓の脂肪含量がPAI-1と相関すること(Tohoku J Exp Med. 2005, 206; 23-30)、ピオグリタゾンによる血中アディポネクチン上昇と肝脂肪減少とが関連すること(岩手医学会雑誌 2010, 62; 59-66)などを報告しました。

  7. 新規動脈硬化診断法の開発

    東北大学工学研究科の金井研究室で開発された超音波診断法・位相差トラッキング法の早期動脈硬化診断法としての有用性を以前から検討しております。また血管内皮機能についてもFMDを用いて研究を行っています(岩手医学会雑誌 2016, 68:175-188)。

  8. 大規模臨床研究への参画

    糖尿病合併症に関する長期観察研究JDCP研究や大規模介入研究であるJ-DOIT3研究といったいくつかの全国規模の臨床研究に参画してきました。また日本糖尿病データマネジメント研究会に参画する数少ない大学病院として、日本から世界に向けたデータ発信の一翼を担っています。
    またいわてメディカルメガバンクの一員として、岩手・宮城の住民健診データから糖代謝・肥満に関するデータを発信すべく解析を進めております。

    他にも、外科、歯周病科、循環器内科、肝臓内科など多くの教室との診療連携・共同研究を進めています。

現在進行中の研究

長谷川豊特任講師は褐色脂肪の発生・分化の調節機構や肥満などへの病態との関わりをカリフォルニア大学サンフランシスコ校で研究し、数多くの論文を発表してきました(Cell Metab. 2018; 27:180-194など)。2016年に帰国し、当教室で褐色脂肪に関する基礎研究を継続してきました。現在、褐色脂肪細胞を活性化させる化合物の探索や褐色脂肪の分化調節に関してマウスを用いた動物実験を行い、成果が出てきております。

また副腎機能不全患者の解析から明らかになったDAX-1遺伝子異常について、培養細胞を用いての機能解析を行っております。