研究内容

岩手医科大学糖尿病・代謝内科の研究について

当科は教室発足以来、佐藤 譲 前教授および石垣 泰 現教授の指導のもと、主として臨床的な研究に力を入れてまいりました。その主要な成果をご紹介します。

これまでの研究

  1. 疾患の病態や治療効果と遺伝子多型

    ヒトの疾患の病態や薬剤に対する治療効果はさまざまな遺伝要因との関連が示唆されています。当科において最も多く検討されてきたのはTNF-αのプロモーター領域の遺伝子多型C-857Tです。TNF-αはインスリン抵抗性との関連(内臓脂肪型肥満や動脈硬化など)があります。当科では腫瘍生物学部門 前沢千早教授のグループとともに、2型糖尿病患者において、この遺伝子多型がLDLコレステロールの血中濃度と関連し、その結果として頸動脈のプラーク形成のリスクであることを報告しました(Yamashina M, et al. Tohoku J Exp Med 211: 251-258, 2007)。さらにこの遺伝子多型が、2型糖尿病患者において、スタチン製剤の臨床効果を減弱させること(Takahashi T, et al. Diabetes Care 332; 463-466, 2010)、このTNF-αの-857T alleleとインスリン抵抗性改善因子であるアディポネクチン+276 G alleleのホモ接合(G/G)との組み合わせがインスリン抵抗性と脂肪肝発症とに関連することを示しました(Ohara M, et al. Tohoku J Exp Med 226; 161-169, 2012)。最近では、IL-6の2つの遺伝子多型のある組み合わせを持ちかつ中等度以上の身体活動度を有する場合に、経口糖尿病薬であるDPP-4阻害薬の無効例が有意に減少することを報告しました(Matsui M, et al. J Diab Invest 2014 July, epub ahead of print)。このように糖尿病や脂質代謝における重要な合併症、またテイラーメイド医療にかかわる薬剤の臨床効果と遺伝子多型に関する研究成果を出しています。

  2. 肝疾患と血管合併症関連因子

    当科は脂肪肝や内臓脂肪面積に関して積極的にCTなどを用いて精査しております。そのなかで、動脈硬化惹起性リポ蛋白であるLp(a)が、肝硬変に伴う糖尿病患者では2型糖尿病患者より低値であり、糖尿病網膜症や脳血管疾患発症率が少なかったことを報告しました(Fujiwara F, et al. Tohoku J Exp Med 205; 327-334, 2005)。また2型糖尿病患者においてMRスペクトル分析によって肝臓の脂肪含量を定量し、これが内臓脂肪型肥満関連因子であるPAI-1と相関すること(Ishii M, et al. Tohoku J Exp Med 206; 23-30, 2005)、ピオグリタゾンによる血中アディポネクチン上昇と同薬による肝脂肪減少とが関連すること(長澤ら、岩手医学会雑誌第62巻,59-66,2010年)を報告しました。

  3. 甲状腺ホルモンと耐糖能障害との関連

    甲状腺ホルモンの活性型であるT3が2型糖尿病においてメタボリックシンドロームの要素と関連することを報告しました(Taneichi H, et al. Tohoku J Exp Med 224; 173-178, 2011)。またT3が耐糖能異常を有する患者におけるインスリン分泌に重要な役割を果たしていることを報告し、膵β細胞機能を改善する治療法に結びつく可能性を見出しました(Oda T, et al. Diabetic Medicine, in press)。

  4. 酸化ストレスと動脈硬化

    糖尿病合併症に酸化ストレスが重要であると考えられていますが、CTで解析した冠動脈石灰化スコアが冠動脈イベントと関連すること(笹井ら、岩手医学会雑誌64巻,363-369,2012年)、そのメカニズムとして石灰化スコアと酸化ストレスマーカーとが2型糖尿病患者で有意に関連することを報告しました(Ono M, et al. Internal Med 53: 391-396, 2014)。

  5. 1型糖尿病

    当科は1型糖尿病患者を多数診療しておりますが、その自己免疫反応の活動性の検討において、1型糖尿病患者で血清CXCL1が上昇していることを報告しました(Takahashi K, et al. Diab Metab Res Rev 27: 830-833, 2011)。

現在進行中の研究

  1. 糖尿病血管合併症に関連する因子の解析

    当科では糖尿病血管合併症に影響を及ぼす因子として、血糖変動や酸化ストレス、終末糖化産物(AGE)などに注目し、様々な角度から関連を検討しています。また血流依存性血管拡張反応(FMD)といった新しい検査機器や超高磁場7テスラMRIを用いながら、糖尿病血管合併症について研究を進めています。

  2. 新規動脈硬化診断法の開発

    当科の石垣は東北大学工学研究科の金井研究室で開発された超音波診断法・位相差トラッキング法が早期の動脈硬化診断法として有用であることを明らかにしてきましたが(Atherosclerosis 196: 391-7, 2008, Atherosclerosis 261: 168-72, 2009)、本測定法の臨床応用に向けてさらなる検討を始めたところです。

  3. 多くの教室との診療連携・共同研究

    糖尿病の病態には各臓器のバランスが重要で、また全身に合併症が出現することから、大学内の多くの教室と協力して糖尿病患者さんの診療を行っています。主な領域としては睡眠時無呼吸症候群や歯周病、高度肥満、網膜症の患者さんについて、いくつかの教室と連携しながら診療レベルの向上につながる新しい知見の発信を目指しています。

  4. 大規模臨床研究への参画

    私たちはいくつかの全国規模の臨床研究に参画しています。代表的なものとして、糖尿病合併症に関する長期観察研究であるJDCP研究や、大規模介入研究であるJ-DOIT3研究が挙げられます。また糖尿病データベースであるCoDiCを用いて臨床データを集積し、JDDM研究会にデータ提供するとともに自施設のデータを用いた観察的な研究も行うなど、日本から世界に向けたデータ発信の一翼を担っています。